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2005年12月05日
■ブックレビュー#05~ヒューマン・ケアの思想と実践
『ヒューマン・ケアの思想と実践』 原 慶子著
ドメス出版 2000年6月20日発行 2300円
【「相手の背骨(価値観・見方・捉え方・精神軸)」を理解しようとするセンスが問われる福祉の仕事】
父親の代から続く老人福祉施設を受け継ぎ、その長年の経験から見た現在の社会福祉のあり方への洞察は、自分のように厚生労働省推奨のテキストから学び始めた者には見えない多くの問題を提示してくれる。一つの制度が生まれ根付いていくまでには、様々な検証や批判を受けなければならないだろう。本書には、その意味で多くのエキスを見出すことができた。
「ケア」については、福祉の仕事の善し悪しを決めるのは人間関係のあり方であると前提しながら、著者は「相手の背骨(価値観・見方・捉え方・精神軸)」を理解しようとするセンスが問われると言っている。「ケア」の意味は心配や気遣いなどが元々の意味であるが、それに必要なのは相手と自分の理解、さらに言うなら人間を理解するということだろう。しかし、行政の中で使われている「ケア」はどこかずれていると著者はいう。私もそう思う。もう一つの視点は、福祉の仕事に文化がどれ程盛り込まれているかという問題である。「文化と芸術の香りのするホーム造り」を目標としている著者の考えには大いに賛成である。もし、自分がサービスを受ける立場だったらと考えると、現在の福祉のありようはあまりにも寂寥としている。生活とは、その人の文化の具現化であるということもできるだろう。著者は施設の立場からの発言だが、在宅福祉でも同じことが言えると思う。後半では、法律や制度の作成される過程で、このようなケアの理念が軽んじられ枠組みだけが数字的にはじき出されている実態を、「人間の顔の見えない介護保険」と表現している。介護保険が国の財政対策として出発したこと、福祉施設のありようを制度の中に当てはめようという国に対して、実践を踏まえた意見は説得力がある。さらに、その痛烈な批判も今後の制度を変える原動力に変えようという著者の発想転換には脱帽した。厳密な洞察力と柔軟さとを併せ持った姿勢に本文中の過激な発言が気にならないほどの感動を覚えた。介護保険施行前に書かれた本であるため、すでに改善されている点もいくつか見受けられる。しかし、見方を変えると、このような現場からの声によって改善されたといえるかもしれない。制度に肉をつけ血を通わせるための材料が豊富に発見できた。また、ひとりの女性として、そのしなやかで力強い生き方にはとても魅力を感じる。
(中島美智代)
投稿者 bfc : 2005年12月05日 17:05